コンタクトレス決済方式

NFCは Near Field Communication(近距離無線通信規格)の略です。

ソニーとフィリップスセミコンダクターズ(現NXPセミコンダクターズ)が共同開発した近距離無線通信の仕様・技術体系のことで、基本仕様は2002年に制定されました。

この技術を決済に応用したものがEMVコンタクトレスと呼ばれるコンタクトレス決済です。

非接触ICの仕様は「ISO/IEC 14443 TypeA/B」です。ICチップメーカーから提供される「NFCチップ」は、これらの非接触ICと通信ができます。

非接触IC決済は、EMVコンタクトレス、NFC Pay、タッチ決済、NFC Type A/B など、様々な呼び方がありますが、全て同じ決済方式のことを指します。

海外でも使えるのが国際仕様のType A/B方式で、Type A/B方式による非接触IC決済は世界では多くの国々で採用されています。

米国、カナダ、オーストラリア、ブラジル、フランス、英国、スペイン、韓国、香港、台湾、ロシアなど、50か国以上で使われています。

Type A/B仕様は、コスト面でも圧倒的な優位性があります。

ほとんど日本国内でしかサポートされないFeliCaと比べると、廉価でカードや端末などのインフラが整備できます。

海外ではEMVコンタクトレスが交通機関の乗車に利用できます。例えば、イギリスではロンドン交通局の地下鉄とバス、シンガポールでは地下鉄 Simply Go、米国ではニューヨーク地下鉄 OMNY、シカゴ交通局 Vantra、カナダではメトロ・バンクーバーTransLink、ブラジルではリオデジャネイロ地下鉄 Visa SAM、オーストラリアではメトロ・トランスポート・シドニー、ロシアではモスクワメトロ、フィリピンでは beep、クロアチアでは Rieka City Cardなど、国際ブランドのEMVコンタクトレスを利用して乗車できます。

一方で、日本で広く普及する非接触IC決済は「ISO/IEC 18092 (NFC TYPE-F) 」、いわゆる「FeliCa(フェリカ)」です。

Type A/BとFeliCaの違いについて説明しますが、FeliCaはICチップの中に残高を記録する「ストアードバリュー」方式を採用しています。これにより、自動改札機との間で高速な通信が可能です。

東京のように乗降客数が多く、高速な通信が求められる場面では、FeliCaが優位性を持っています。

FeliCaは国際標準のType A/Bと互換性はありません。

リップルマーク左のマークが「リップルマーク」と呼ばれるマークです。EMVCoという組織が定めるガイドラインに準拠し、EMVコンタクトレスに対応している端末と、NFC Pay対応のカードにプリントされています。

コンタクトレス決済のメリット

カードをかざすだけで暗証番号の入力などが不要で支払いが行えます。

店員にカードを渡すことなく、非接触IC決済対応のカード(クレジットカード、デビットカード、プリペイドカード)またはタッチ決済対応のスマートフォンを、レジにあるリーダーにかざすだけで決済ができます。サインや暗証番号の入力も不要です。

つまり、コンタクトレス決済は、安全で迅速かつ便利な支払い方法です。(ただし、一定金額を超える支払いにはカードを挿し、暗証番号の入力が必要です)

国際ブランドによって微妙に呼称が違う

これもコンタクトレス決済の理解を妨げている理由の一つだと思いますが、国際ブランドによって呼び方が異なります。

店員さんの操作によって、タッチ決済を希望しているのにiD決済が選択されてしまうことがしばしばあります。現時点では「クレジットで」「カードで」と宣言してからカードリーダーにタッチするのが確実です。

当初の呼称が途中で変更されたり、国内と海外で呼称が異なることが現場の混乱を招いています。。

国際ブランド非接触IC決済サービス呼称旧名称・海外名称
VisaVisaのタッチ決済Visa payWave「Visaで」「Visaをタッチで」「Visaのタッチ決済で」
MastercardMastercardタッチ決済(Mastercardコンタクトレス)MasterCard PayPass「Mastercard(コンタクトレス)で」「Mastercardタッチ決済で」
JCBJCBのタッチ決済(JCBコンタクトレス)J/Speedy「JCBコンタクトレスで」「JCBのタッチ決済で」
American Expressアメリカン・エキスプレスのタッチ決済(American Express Contactless)ExpressPay「アメックスをタッチで」
Diners「ダイナースクラブ コンタクトレス
(タッチ決済)」 / Diners Contactless
「ダイナースクラブのタッチ決済で」
DiscoverDiscover D-PAS
Union Pay(銀聯)Quick Pass

国際ブランド各社の呼称については、揺れ動いていましたが、Visa、JCB、AMEXに続き、Mastercardも「タッチ決済」を採用することで、デファクトスタンダードになったと言えるでしょう。

「Visaのタッチ決済」の普及状況

2019年末時点で、対前年比で日本全国のタッチ決済対応の端末数は約3.8倍となったとの情報があります(加盟店管理会社からの報告による)。

2020年3月末時点で、国内におけるVisaのタッチ決済対応カードの発行枚数は、約2,390万枚(取引先金融機関・発行会社からの報告による)であると報告されています。

イオングループが2020年3月までに、イオンリテール本体に加え、イオンモール、傘下のスーパーマーケット、ドラッグストア、コンビニエンスストアを含む10万台の対応レジを導入完了しました。

そのほか、ドトールコーヒーやコカ・コーラのマルチマネー対応自販機でも2020年4月より順次導入が行われています。

日本最大のコンビニエンスストアチェーンのセブン-イレブン・ジャパンは、2020年6月11日から順次対応を開始しました。

EMVコンタクトレス規格(Visaのタッチ決済他)は、東京オリンピックの開催が決まってから主に訪日外国人向けに対応加盟店を増やしました。

しかしながら、日本においてはまだまだ利用できない店舗が多く、現在の状況ではすでに普及しているFeliCa規格に取って代わるものではありません。

利用者もまだ限られており、使える端末があるにもかかわらず「使えない」と言われることや、「タッチ決済でお願いします」と伝えても「カードをスロットに挿してください」と言われるなど、現場での混乱が生じています。

Visa提携による新規発行プラスチックカードは、「Visaのタッチ決済」の搭載が必須とされています。Visaはグローバル規格を一本化したいとの意向があります。

ただし、日本のカード会社はそれぞれの戦略があり、すでに普及しているFeliCa規格の決済方式を簡単に捨てることはできません。これを行えばユーザの利便性が損なわれる可能性があります。

コストがかかるにもかかわらず、FeliCa方式の電子マネーとダブル搭載を採用するカードも存在します。実際、オリコのカードではiD、QUICPay、Mastercardコンタクトレスのトリプル搭載もあります。

EMVコンタクトレスはFeliCaの利便性が高いため、一部のキャンペーンを除けば、国内で優先的に使うことによるメリットはそれほどありません。

一方、海外ではFeliCa規格の決済手段は使用できないため、EMVコンタクトレスが有用です。言い換えれば、コンタクトレス決済と聞いたら、主にEMVコンタクトレスのことを指します。

そのため、国内では無理にEMVコンタクトレスを使わず、使えることが確認されている店舗でのみ利用し、FeliCa規格のiD、QUICPay、交通系ICカードのSuicaを優先的に利用するのが、店舗と顧客とのスムーズなコミュニケーションにつながります。

実際に利用する際は「クレジットでお願いします」と伝え、ゆっくりカードをかざすことがおすすめです。もし反応がなければ、スロットに挿入して決済するという流れです。

多くのインターフェイスから、簡単で迅速に使える安全な決済方法を選ぶことが、キャッシュレス社会におけるストレスのない生活術と言えるでしょう。

NFCコンタクトレスのApple Payが使える国

アフリカ

南アフリカ

アジア太平洋地域

オーストラリア・中国本土・香港・日本・マカオ・マレーシア・ニュージーランド・シンガポール・台湾

ヨーロッパ

アルメニア・オーストリア・アゼルバイジャン・ベラルーシ・ベルギー・ブルガリア・クロアチア・キプロス・チェコ共和国・デンマーク・エストニア・フェロー諸島・フィンランド・フランス・グルジア・ドイツ・ギリシャ・グリーンランド・ガーンジー・ハンガリー・アイスランド・アイルランド・マン島・イタリア・カザフスタン・ジャージー・ラトビア・リヒテンシュタイン・リトアニア・ルクセンブルグ・マルタ・モルドバ・モナコ・モンテネグロ・オランダ・ノルウェー・ポーランド・ポルトガル・ルーマニア・サンマリノ・セルビア・スロバキア・スロベニア・スペイン・スウェーデン・スイス・ウクライナ・英国・バチカン市国

中南米、カリブ

アルゼンチン・コロンビア・コスタリカ・ブラジル・メキシコ・ペルー

中東

バーレーン・イスラエル・ヨルダン・クウェート・パレスチナ・カタール・サウジアラビア・アラブ首長国連邦

北米

カナダ・米国

Apple Pay に対応している国や地域 – Apple サポート (日本) 2022年12月07日現在

NFCコンタクトレス年表

         
2002年ソニーとフィリップスセミコンダクターズ(現NXPセミコンダクターズ)がNFCを共同開発、Near Field Communication(近距離無線通信規格)基本仕様を制定。
2006年オリコがMastercard PayPassに対応するカードを発行。
2010年クレディセゾンがMasterCardのPayPassを使い、海外を含めた店舗でNFC決済の実証実験を行う。
2011年12月21日株式会社NTTドコモ、KDDI株式会社、ソフトバンクモバイル株式会社は、日本にがおけるモバイル非接触ICサービスのさらなる拡大を目的として「モバイル非接触ICサービス普及協議会」を設立。
2012年1月KDDIがNFC対応スマートフォンによる商用サービス「モバイルNFCサービス」を発表。
2012年7月ロンドンオリンピックでタクシーなどにVisa payWaveが導入される。
2012年10月三井住友カードがPayPass/payWaveへの対応を正式リリース。オリコもpayWaveへの対応を発表。
2014年9月9日米国アップル社が「iPhone6/6Plus」を発表。非接触IC通信技術のNFCが搭載される。
2014年10月米国でApple Payのサービス開始。2015年7月に英国、2015年11月にカナダとオーストラリアでもサービス開始。
2016年9月7日 iPhone7やApple Watch2にFeliCaが搭載されることが発表される。Suica、iD、QUICPayが利用可能になる。
2019年4月シンガポールのMRTがMastercardコンタクトレス(NFC-A/B)に対応
2019年12月1日ロンドンの公共交通機関でApple Payのエクスプレスカードが使用可能に。地下鉄やバス、路面電車など全ての公共交通機関で使用可能です。Apple Watchでも利用が可能。
2019年12月30日台湾の桃園大衆捷運(桃園捷運)が台北〜桃園国際空港間でNFC-A/B非接触型決済に対応。「タップアンドゴー」はVISA、Mastercard、Union Pay、JCBカードなどのクレジットカードのほか、Google Pay、Apple Pay、Samsung PayなどNFC決済も利用可能。
2020年10月リクルートは決済サービス「Airペイ」において「Visa」「Mastercard」「JCB」「American Express」における非接触決済(TypeA/B)に対応(Airペイアプリ4.0.0以上、およびカードリーダーのアップデートが必要)
2021年10月21日iPhone(iOS15~)でnanaco、WAONが利用可能になる。
2023年3月22日対象のAndroid端末でモバイルICOCAが利用可能になる。
2023年6月27日Apple PayのICOCAが利用可能になる。

2020年5月27日 作成
2023年9月4日更新

※ EMV(R)は米国およびその他の国における登録商標です。EMVの商標は、EMVCoが所有しています。


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