クレジットカードを選んでいて、ふと疑問に思うことはないでしょうか。クレジットカードを使うだけで、ポイントがもらえるのはなぜなのか。約20年前、私がクレジットカード会社に入社したときにも、このような疑問を持ちました。今ではクレジットカードの利用金額に対する実質的なポイントの価値、いわゆるポイント還元率は、当時よりも格段に高くなっています。
リボ払いや分割払いのようにクレジットカード会社に手数料を支払う場合は、その手数料の一部がポイントとして還元されるのだと理解できます。でも、1回払いの場合は手数料がかからないのにポイントがもらえます。これはなぜでしょうか。
お店での買い物の際にも、ポイントがもらえることがあります。お店にとってポイントは費用ですので、その分だけもうけが減ります。それでもポイントをつける理由は、顧客にもう一度買い物をしてもらうためです。お店でもらえるポイントは、同じお店か系列のお店でしか使えません。せっかくもらったポイントは使わないともったいない。そう思って顧客がもう一度買い物をしてくれれば、お店にとっては支払う費用以上に売上があるので良いというわけです。
また、ポイントには、買い物する気持ちを高める効果があります。どれを買うか迷っているとき、ポイントが多くもらえる商品を選ぶことはないでしょうか。ポイント優待の日につい買いすぎたという経験があるかも知れません。お店にとって、ポイントは顧客の気持ちを高め、買い物してもらうための仕掛けです。もうけの大きい商品を選んでもらうことや、ライバル店には行かず、そのお店でまとめ買いしてくれることを期待しているのです。
クレジットカード会社にとって、1回払いでポイントをつけると赤字になる!?
これに対して、クレジットカードのポイントは、どんなお店の買い物でももらえます。そのポイントは、特定のお店でしか使えないものもありますが、幅広いお店で使えるギフト券などと交換できるものもあります。原則、クレジットカード会社のポイント費用はクレジットカード会社が負担しています。いったい、クレジットカード会社はどうやってもうけを出しているのでしょうか。
クレジットカードの1回払いで10,000円分の買い物をすると、約1ヶ月後に、その代金として10,000円が口座振替により差し引かれます。このとき、利用者からクレジットカード会社に代金が支払われます。そして、順番は前後することが多いですが、この代金はクレジットカード会社からお店に支払われます。その際、手数料が差し引かれて支払いされます。仮に手数料が利用金額の2%だとすれば、お店に支払う金額は9,800円で、差額の200円がクレジットカード会社の売上になります。実際の契約はもう少し複雑ですが、単純化すれば、クレジットカード会社はお店から手数料をもらっていることになります。
この売上は、そのままもうけになるわけではありません。クレジットカード会社には、顧客のクレジットカード利用金額に関係なく発生する費用があります。たとえば、口座振替の際に銀行に支払う手数料や、利用明細の印刷費や郵送費といった費用は、顧客の利用金額が1円であっても発生します。仮にこれらの費用が150円だとすれば、月に10,000円分の利用によって200円の売上があるという先ほどの例の場合、ポイントを除くクレジットカード会社のもうけは50円です。ここから、利用金額の0.5%、つまり50円分のポイントをつけるともうけはゼロになりますし、利用金額の1%、つまり100円分つけると50円の赤字になります。
現在、日本のクレジットカード取扱高は年間約48兆円で、発行枚数は約2.7億枚です。全てのカードが毎月使われてはいませんが、単純計算すれば1枚あたりの月間利用金額は約15,000円で、これではもうけの水準が大きいとは言えません。実際、1回払いだけでは、もうけの出ていないクレジットカードはあります。
1回払いでポイントがもらえるのは、メインカードとして使ってもらうため
このように、クレジットカード会社にとって費用負担は小さくないのに、なぜポイントをつけるのでしょうか。理由は3つあります。
1つ目は、クレジットカードの利用者を増やすためです。
クレジットカードを選ぶ際には、年会費や提携するお店での割引特典のほか、やはりポイントや航空会社のマイレージが多くもらえるかどうかを基準にすることが多いと思います。
2つ目は、クレジットカードの1枚あたりの利用金額を増やすためです。
先ほどの例で、クレジットカードの利用金額が2倍の20,000円になれば、売上も2倍の400円となります。ここから諸費用150円を差し引いて、利用金額の1%、つまり200円分のポイントをつけても50円のもうけが出るようになります。
3つ目は、クレジットカード利用者に対する企画がしやすくなるためです。
たとえばリボ払いや、特定のお店での利用に多くのポイントをつけるといったもので、これにより手数料収入や広告収入が期待できます。これらは、別の機会にあらためて触れたいと思います。
今どき、クレジットカードは一人で何枚も持っています。ポイントを含め、魅力的な特典を用意することで、たくさんある中から一番利用するクレジットカード、つまりメインカードとして選んでもらうことが、クレジットカード会社の狙いです。
中には、クレジットカードを多く利用してくれる人にはポイントを多く還元しながら、あまり利用しない人には実質的なポイント還元率を低くするための条件を設ける場合があります。たとえば、端数を切り捨てたり、一定数以上のポイントを貯めないと特典として利用できなくしたり、利用金額が大きいほど還元率を高くする場合もあります。
もちろん、クレジットカード会社は費用削減の努力もしています。利用明細をWebで確認できる会社が増えていますが、そうすると、印刷費や郵送費を削減できます。このような努力の積み重ねで、たくさんのポイントがもらえるようになったという面もあるのです。
加藤 総(かとう そう) コンサルタント(金融・決済・教育に関する新規事業支援)、ベンチャー企業役員等。クレジットカード会社に約10年勤務後、デビットカード事業の立上げに参画するため、インターネット銀行に転職。カード事業の責任者など、約7年勤務したあとに独立。現在は、金融・決済・教育分野の新規事業参入支援のほか、各種調査、講演活動等を行うかたわら、カード業界向けの専門誌「月刊消費者信用」への連載寄稿のほか、「カード決済業務のすべて」「電子決済総覧2015-2016」等への執筆協力を行う「お金」の専門家。
皆さんは「ポイント還元率が高いから」「ポイントやキャッシュバックなどのキャンペーンが良かったので」「友人知人が使っているから」といった理由でカードを選ばれることが多いと思います。お得ばかりを追い求めてカードを作り続けるとたいていポイントが分散してしまいます。それは入口にフォーカスしているからです。
入口=どこで使うか、出口=カードになにを求めるか、決済金額=一年にどれくらい使うか。
この3つの要素が揃って、はじめて有効なクレジットカードを選ぶことができます。大事なことは最終的にクレジットカードに求めるものを明確にすることです。つまり出口を決めることから始まります。当サイトでは「出口から逆算して決済金額で最適化する」ことを提案します。
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