前回(日本と海外では別サービス!?「Apple Pay」を知ろう!(前編))は、2015年にアメリカで始まったばかりのApple Payのサービス内容についてお話ししました。現在も、海外では同じサービス内容ですので、このサービスを「海外版」のApple Payと呼びます。
翌2016年、いよいよ日本でもApple Payのサービスが本格的に開始しました。しかし、それまでのApple Payとは「別サービス」とも呼ぶべきものでした。今回は、この「日本版」のApple Payについてご紹介します。
2016年9月、iPhone 7が発売されました。この機種の目玉は「日本の電車に乗れる」ことです。乗車の際、手動でアプリを起動する必要はありません。また、他のアプリが起動中でも、そのiPhone 7を改札ゲート脇のリーダーにかざせば、ゲートが開いて通過できます。
動画サイトで、Appleのティム・クックCEOがiPhoneをかざして改札を通る様子をご覧になった方もおられるでしょう。Apple Watchを使っても乗車できます。ただし、このサービスの対応機種はiPhone7やApple Watch Series 2の中でも「日本で販売された」端末に限定されています。
このサービスの導入にあたっては、Appleにとって難しい判断もあったと思います。と言いますのも、Android端末の「モバイルSuica」対応は2011年に始まっています。日本での販売シェアや、4年後に東京オリンピック・パラリンピックが開催されることを考えると、iPhoneのSuica対応は避けられなかったはずです。
一方で、ただ単にSuicaに対応すればよいわけではありません。前編でお話ししたとおり、日本では「海外版」のApple Payはほぼ使えません。Suica機能を加えるだけでは、事実上「モバイルSuica」と変わりません。そうなると、Androidより5年遅れで「iPhone版モバイルSuica」が登場したという、不名誉な紹介がされることになります。
結局、Suica対応と同時に、日本独自のモバイル決済サービス(iD、QUICPay)と提携しました。Suica、iD、QUICPayの各加盟店を「Apple Payが使える店」にしたのです。
一見すると、これはサービス拡充ですが、実際は「海外版」とは別のサービスである「日本版」Apple Payの誕生を意味しています。このことは、何か問題があるのしょうか。
これだけ違う「日本版」と「海外版」のApple Pay
「日本版」Apple Payの使い方を、「海外版」との違いを中心にご説明します。
まず、登録方法は、Suicaが特殊です。カード型のSuicaにiPhone上部をかざし、直接カード情報や残高情報を読み取って移行します。移行した場合、カード型のSuicaはそれ以降使えなくなります。また、カード型のSuicaをもたなくても、新たにSuica番号を発行することでiPhone上に登録することもできます。
クレジットカード、デビットカード及びプリペイドカードの登録方法は「海外版」と同様です。このとき、自分のカードがiD、QUICPayのいずれに対応しているのか、登録前にはわからない場合があります。そもそも、自分がどちらを選んだか記憶にないでしょう。どちらに対応するかは、カード発行会社が決めているのです。
次に、使えるお店は、Suica、iD、QUICPayの各加盟店です。ただし、Suica加盟店では、Suicaを登録したApple Payだけが使えます。他の2サービスは使えません。iD加盟店、QUICPay加盟店も同様で、どれもApple Payを名乗りながら、他のサービスは使えません。そして厄介なことに、どれか1つのサービスしか使えないお店は結構あります。
最後に、使い方は、「Apple Payで支払う」といっても店員は対応できません。最初に、Suica、iD、QUICPayのいずれで支払うかを店員に伝える必要があります。
Suicaの場合、そのままiPhoneの上部をリーダーにかざします。Suicaのバリューが会計金額より多ければ、その金額分のバリューが減り、支払いが完了します。(一部の自動販売機では、Suicaの場合でもアプリの起動が必要な場合があります。)
iDやQUICPayの場合、「海外版」同様、アプリを起動して指紋(顔)で認証し、iPhoneの上部をリーダーにかざします。代金は、カード発行会社を通じて支払います。
ここまで見ると、確かに「海外版」と「日本版」に違いがあるものの、さほど問題があるようには見えません。確かに、Suicaについてはあまり問題になりません。しかし、iDとQUICPayを使う際には、「日本版」特有の面倒があります。
先ほどもお話ししたように、iDまたはQUICPayの片方しか使えないお店はあります。一方で、登録したカードは、iD、QUICPayのいずれかしか使えません。つまり、お店によって、カードを使い分けなければなりません。これには2つの面倒があります。
1つ目は、「日本版」Apple Payを多くのお店で使うためには、複数のカードを登録する必要がある点です。また持っているカードをApple Payに登録したら、すべてiD(QUICPay)だった、ということもありえます。カードを作り直すのは面倒です。
2つ目は、カードの選択が必要な点です。「ボタンをダブルクリックしてリーダーにかざす」という一連の動作でスムーズに支払いをするには、使うカードがWalletアプリの最前列に配置されている必要があります。いちいちカードを選択するのは、案外と面倒です。
先ほどSuicaは問題にならないと言ったのは、この2つの面倒がないためです。
1つ目として、Suicaは手元にカードを持っていなくても、その場で新たなSuica番号を発行できるためです。カードを作り直す必要はありません。
2つ目として、Suicaは「カード選択」どころか、アプリを起動しなくても利用できます。「Suicaで支払う」と告げれば、あとはかざすだけです。もはやApple Payというより、「iPhone版モバイルSuica」ですが、使っていてストレスを感じることはありません。
なお、「海外版」にも、MastercardとVisaの2種類のサービスがあります。しかし、海外にいて、MastercardかVisaのどちらかしか使えないお店は見たことがありません。いずれかのカードが1枚あれば、世界中の「海外版」Apple Pay加盟店で利用できます。(例外的に、平昌五輪の会場付近では、Visaしか使えないお店はあるようです)
また、「海外版」の場合、Apple Payを使うには、店員には「コンタクトレス」とだけ告げればいいのです。国にもよりますが、「Apple Pay」と言っても通じます。これに対して、ステッカーを見ながらどのサービスを利用するか告げ、iPhone上でカードを選択しなければいけないのは面倒です。「おもてなし」とは正反対のサービスだと感じます。
「海外版」に近付く日本、それでも残る課題
2017年秋、日本で発行されたカードを登録したApple Payで、海外のEMV コンタクトレス加盟店での支払いができるようになりました。対象のカードはごく一部でしたが、対応発行会社は徐々に増えてます。また、このころから、JCB やAmerican Expressも、Apple Payに対応を始めました。「日本版」のサービスは、「海外版」に近付いてきています。
現在、日本で発行されたカードでApple Payを登録の方は、Walletアプリをご覧ください。カードデザインにiD、QUICPayのほか、国際ブランドのロゴマーク(または、右下の「i」ボタンを押し、デバイスアカウント番号欄に国際ブランド名)が表示される場合があります。ここで表示される国際ブランドにより、Apple Payの使える範囲が異なります。
まず、国際ブランド名が表示されない場合は、海外では使えません。Mastercardと表示される場合は、海外のEMVコンタクトレス加盟店で使えます。American Expressと表示される場合は、原則使えますが、お店によって使えません。JCBが表示される場合は、台湾など一部で使えます。なお、現時点でVisaと表示される方はいないはずです。
このようにまだ不完全な状態ですが、早晩日本で発行されるカードの多くは、Apple Payに登録することで、海外でも使えるようになるでしょう。
一方、海外からの訪日客の問題は残ります。日本のコンビニにはApple Payのマークがついていますが、これはSuica、iD、QUICPayのことです。「海外版」のApple Payは、ここでは使えません。Apple Payが使えると書いていながら使えないのです。顧客の期待や、当然そうであろうという常識を裏切っているという点は大きな問題です。
ただ、コンビニ各社はEMV コンタクトレスに対応すると発表しています。これは、コンビニで「海外版」が使えるようになることを意味します。日本の多くのお店で「海外版」が使えるようになれば、Suicaを除く「日本版」は不要になるかも知れません。
確かに理屈はそうですが、「日本版」と「海外版」では、「かざす」ときにお店の機会とiPhone(またはカード)の間で行われる通信の規格が異なります。双方に対応するとお店にとっての負担が大きいため、当面、「日本版」と「海外版」は混在するでしょう。
Apple Payはまだまだ発展途上ですので、今年の秋には、また新たな局面を迎えることでしょう。しかし、少なくともそれまでは、Apple Payを多く使いたいのであれば、「iD用」「QUICPay用」と、必要に応じて「海外用」のカードに入会し、Walletアプリに複数枚登録しておく必要がありそうです。
加藤 総(かとう そう) コンサルタント(金融・決済・教育に関する新規事業支援)、ベンチャー企業役員等。クレジットカード会社に約10年勤務後、デビットカード事業の立上げに参画するため、インターネット銀行に転職。カード事業の責任者など、約7年勤務したあとに独立。現在は、金融・決済・教育分野の新規事業参入支援のほか、各種調査、講演活動等を行うかたわら、カード業界向けの専門誌「月刊消費者信用」への連載寄稿のほか、「カード決済業務のすべて」「電子決済総覧2015-2016」等への執筆協力を行う「お金」の専門家。
皆さんは「ポイント還元率が高いから」「ポイントやキャッシュバックなどのキャンペーンが良かったので」「友人知人が使っているから」といった理由でカードを選ばれることが多いと思います。お得ばかりを追い求めてカードを作り続けるとたいていポイントが分散してしまいます。それは入口にフォーカスしているからです。
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