政府によるキャッシュレス化に向けた施策が発表されている。キャッシュレス決済の消費に対して5%のポイントバック、といった施策を展開すると発表されているが、そこに関して違和感がある。これだけのキャッシュレス決済が普及している中で、画一的に同じシステムを改修し、ポイントバックへの対応を進めるのは現実的ではないだろう。
キャッシュレス決済を推進するためには、ユーザーのメリットより、加盟店のメリットやインセンティブを考えるべきではないだろうか。どうせ資金を投下するのであれば、補助金だけでなく、加盟店のキャッシュレス決済の売上に対して、5%のキャッシュバックを実施するぐらいの方が面白い。
この記事によって分かること
中小店舗が導入しない理由は手数料の高さだけじゃない
そもそも、なぜ、中小店舗や個店でキャッシュレス決済が導入されないのか。その理由は、端末コストや決済手数料が高いだけではない。
それ以外で導入インセンティブが下がる理由として挙げられるのが、キャッシュフローが悪化する問題である。プレミアム商品券で、現金回収までの時間がかかり、幾つかの個店でキャッシュフローが悪化してしまったのは記憶に新しい。もし本格的にキャッシュレス化を進めるのであれば、APIの開放を促すか、国がファンドを作るなどして、当日入金(すくなくとも翌日入金)を実現する体制を作る必要があるだろう。
そして、もう一つは、お金の流れを可視化したくないというインセンティブが働いている可能性がある。ユーザー側にも加盟店側にも一定程度の可視化したくないお金の流れが存在しており、その観点から、キャッシュレス化への対応を好まない事業者がいるという見方もある。
キャッシュレス決済の効果として、消費促進があげられる。集客をはじめとしたマーケティング効果や、キャッシュレス決済による平均単価の上昇が十分にあることが実証できれば、加盟店手数料率が高かったとしても、キャッシュレス決済を導入するインセンティブが働くのではないか。
PayPayの100億円あげちゃうキャンペーンは成功したか?
PayPayの持続性は懐疑的にみている。第1弾のキャンペーンは、高額消費の領域でのキャンペーンを実施し、かなりのインパクトを残したが、キャンペーン後の利用は大分停滞したようだ。そして、第2弾で、小額で多頻度の利用で還元率が高まるキャンペーンにシフトした。
PayPayのキャンペーンの効果としては、QRコード決済を身近なものにしたという点に尽きる。LINE Payが加盟店手数料無料を打ち出しても、微動だにしなかった加盟店が、PayPayのキャンペーンがフックになり、キャッシュレス決済を導入するようになった。このように、PayPayのキャンペーンは100億円のインパクトとマスコミ報道の宣伝効果とが相まって、ユーザーや店舗を動かしたという事実はある。
しかしながら、キャッシュバック20%はインパクトとしては大きいが、営業部隊のコストも考えると、無理がある。日本のユーザーは小額で多頻度の決済領域においては、コンタクトレス決済を利用してきた歴史があり、利便性においてはコンタクトレス決済を上回るものではない。コンタクトレス決済からQRコード決済へのシフトを促そうとするには、どうしても、利得性を訴求せざるを得ない。
小額や高額の支払いに対して、20%をキャッシュバックするだけでは、不十分であり、資金的にも限界が来る可能性がある。継続的でかつ効果的なキャンペーンの実施に加え、特定の流通企業と提携したキャンペーン等を行っていかなければ、本当の意味での浸透は難しいのではないだろうか。
利得性に訴えるだけではQRコード決済の普及は限定的に
上述した通り、すでにコンタクトレス決済等の主に小額の決済インフラが整っている日本市場でQRコード決済を普及させるには、どうしても利得性に訴える必要がある。
確かに、広告宣伝費として資本を投下し、会員数の拡大を図ることで、新たなビジネスに結びつけるシナリオを持っている事業者は多い。しかしながら、利得性に訴えるだけでは一定の割合以上に拡大することは難しいであろう。
このまま、利得性を訴求するだけの決済サービスの乱立が続くようであれば、キャンペーンによるバラマキ競争で決済サービス提供事業者が疲弊してしまい、勝者なき戦いとなってしまうであろう。
加盟店側の導入メリットの訴求がキャッシュレス化推進のカギ
キャッシュレス化を推進する原動力となるのは、やはり、加盟店でなければならない。
加盟店がキャッシュレス決済のメリット(売上や平均単価の上昇、加盟店へのキャッシュバック実施などの各種優遇措置等)を感じるようになれば、積極的にキャッシュレス決済を導入するだけでなく、顧客に対しても、キャッシュレス決済を勧めるようになるであろう。
キャッシュレス化のメリットを享受する加盟店が増加することを期待してやまない。
髙野 淳司
(株)矢野経済研究所 ICT・金融ユニット マネージャー
主任研究員
◆担当領域:・キャッシュレス関連 ・金融×IT関連等・ EC領域
◆発刊資料:・クレジットカード市場の実態と展望 2017
・電子決済/EC決済市場の実態と将来予測 2017
・オンライン決済サービスプロバイダーの実態と将来予測 2018
・ポイントカード/ポイントサービスの動向と展望 2018 (矢野経済研究所発刊)
◆その他・「外国人観光旅客利便増進措置に関する検討会」において委員として参加
・上記担当領域についてメディアへのコメント提供 等
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