この記事によって分かること
ポイントプログラムの「始原」「ルーツ」「歴史」を振り返る
今や猫も杓子もポイントカードやポイントプログラムばやりで、大型商店から、クレジットカード、航空会社、小さな店、個人営業の飲食店、銀行に至るまで、様々な業種、業態で実に多種多様なポイントプログラム(ポイントサービス)が実施されている。
個人が多数のポイントカードを作ったり、カードの発行の有無の差はあるが、ネット通販や各種の支払いにポイント制度が組み合わされるのは当たり前の感さえある。
このような極めて日本的な「現象」は、これだけ広く「普及」しているのにもかかわらず、実施の主体が様々な業種に広がっているため、いつ、だれによって、どのような内容や目的で開始されたのか、大昔のことではないのに、ほとんど知られていない。
そのため、かなりの誤解もある。日本全国でどのくらいの数の同種のプログラムが実施されているか、正確な統計もないだろう。
そこで、これからも同種、あるいはもっと発達した形態でポイントプログラムは展開されていくだろうから、今後の企画や内容の検討の際の参考のため、あらためてポイントプログラムの「始原」「ルーツ」「歴史」について簡単に振り返ってみたい。
それには、まず、「ポイント」という言葉と内容についての定義をしておく必要があろう。
「ポイント」とうたっていなくても、商店等で使用金額に応じて点数、あるいは販売の回数により「点数」が与えられ、集めた点数によって賞品や金券がもらえ、あるいはそれにより割引やサービスが受けられる制度、ということになろうか。
日本では1910年(明治43年)に日本初のスタンプ制度が誕生
石原明氏のブログによると、日本では1910年(明治43年)に福岡の呉服店がいま言う所のスタンプ制度を始め、1932年(昭和7年)に江崎グリコがお菓子に引換券をつけ、集めると模型や紙芝居がもらえたのが、最初という。
こうした実例が知られているが、実際には町の商店や、地方の商店街では、今では探求が困難だが、得意客などを対象に、どの程度制度化されていたかは不明であっても、さまざまな優待、優遇サービスが行われていたものと想像する。
割引券、金券の発行などもあろうが、対面での得意客、高額の購入、大量の購入者に対する割引、値引きなどが出発点であろうし、今でもスーパーなどでもあるが、閉店間際の生鮮食品の値引きなども類似の販売方法と考えられるだろう。
つまり「広義の(数値化されない)ポイント」サービスだ。
こういった日本の商店での対顧客のサービスは、自然発生的なものであり、原点は限りなく昔のことに遡ることが可能であろうが、こういった方面での研究は進んでいない。
ここで主張したいのは、戦前、戦後、特に終戦後の50年代以降、生活に余裕ができ、商品経済が活発化した時期に、各種の「ポイントサービス」の原初形態と呼ばれるものが、各地で発達したことであろう。
信販会社の発展による家電などの分割払いによる購入、百貨店などでの特別セールなども盛んに開催され、百貨店のセールなどでは前回のセール利用者へのダイレクトメール(DM)の封筒が次回のセールの入場券になるなど、顧客への特典が用意され、顧客の固定化や販売促進が行われるなど、売り上げ促進のためのポイントサービスの前段階の歩みには顕著なものがあった。
全国に大きな影響を与えたJCBのJoyJoyプレゼント
1981年、それまでの日本のクレジットカードの多くが、国内専用カードであったのに対して、海外旅行の一般化に伴い、国内カードの海外使用の要求が大きくなっていった。
JCBはそれまでのアメリカンエキスプレスとの提携による、JCBのマークが裏面にはいったカードの発行から、自らのカードの国際化を目指すことになった。その際、アメリカで誕生した国際的な組織に加入することも検討されたが、最終的に独自路線を選択した。
1981年はJCBにとって創立20周年の年であった。
独自路線の海外加盟店ネットワークの整備には時間がかかる。
海外でのカード利用の促進のため、JCBカードの海外利用でのメリットを立案することになった。
そこで誕生したのが、JCBの本社企画部が立案した「JCB JoyJoyプレゼント」だった。
これは業界にとって最初の同種のポイントプログラムであり、その後、銀行系だけでなく、信販系、流通系など様々なクレジットカードのポイント制度の先駆けになり、今に至るまでカード業務とは切っても切れぬ制度になり、日本におけるポイント制度全体に大きな影響を与えるものになった。
JCBのあと、ほとんどの銀行系カードが半年から2年くらいの間に類似のサービスを開始したことを見れば、その影響の大きさが知れるだろう。
JoyJoyプレゼントに始まるクレジットカードのポイントプログラムの影響力を知る具体的な証拠は、最近でも各種のカードに関する調査で、クレジットカードを使用する理由のトップに、ポイントプログラムがあることがあげられることが多いという事実だろう。
多くの消費者はポイントの魅力を感じてカードを使用しているのだ。これは極めて日本的な状況だろう。
私は、クレジットカードの早くからのこの種のポイントプログラムの企画は、最近の大小の日本におけるポイントプログラムに決定的な影響を与えたと考えており、このような事情は最近の政府による消費税の還元にあたってのクレジットカードやプリペイドカード利用者への政策や、スマホ決済での各社の優遇策などにもつながっていると考えるべきだろう。
つまり広義のキャッシュレスの歴史を見ていくと、JCBのJoyJoyプレゼントの今にいたる位置が見えてくるのだ。
JoyJoyプレゼントの誕生と発展
1981年の3月にこのプログラムが誕生したのだが、今は、Oki Dokiプレゼントプログラムという名称に変更されている。
JCBが世界への加盟店網の整備を開始して最初に海外加盟店での取り扱いを開始したのは正式には同年の8月とされている。当初の予定では1年間で終了するはずであったが、好評のため、延長することになり、実に現在に至る38年間継続していることになる。
JCBの創立20年と同社による海外独自展開ということがなかったら、このプログラムは実施されていなかっただろう。
するとこの種のプログラムは他社によっても実施されてはいなかったことが予想されるから、別の意味で極めて大きな影響を日本のペイメントカード業界に与えていただろう。
今では当然のごとく扱われている、ポイントプログラムは少数の個人による発案によって陽の目を見たことにあらためて注目したい。
付記するならば、この全くの日本製のプログラムは、アメリカなどカード先進国のカード発行会社の制度を模倣したものではない。
さて、その後このプログラムは修正、改善を加えられて進歩しているが、今とは内容が少し違っていた。
今は、毎月のカード利用代金明細書にその月のカード利用金額に応じた点数が計算、表示され、その月までの合計点数も知ることができるが、1981年に開始した当時は、その月の点数のみが、明細書の一部に印刷されたスタンプ状の部分(応募シール)に印刷された。
それまでの合計額は表示されなかった。
カードを一回使用すると1点、1万円ごとに1点が加算され、毎月のシールを専用台紙に貼って、合計の点数に応じて景品と交換できた。
アメリカ生まれのスタンプに学ぶ
アメリカなどにJCBのJoyJoyプレゼントによく似たものがないとは言っても、これがアメリカの影響を受けていないと考えるのは間違っている。明細書上に印刷された「応募シール」のことだ。
当時の企画担当責任者であったS氏(その後、常務に就任)に聞くと、これは丁度そのころ日本でも急速に普及していた、アメリカの関連会社として生まれたトレーディングスタンプブルーチップやグリーンスタンプなどの1960年代初めの日本での活動に注視していた。
買い物のたびに店からもらえるスタンプを専用台紙に貼って、点数がたまると景品と交換できた。そのアイディアをJCBも採用したのだ。
1960年代初めは、JCBが設立された時期、つまり日本におけるクレジットカードの黎明期にもあたっていて、アメリカからやってきた各種の新業務が生まれた時期でもあった。リースなどもその一つであろう。
実はJCBは株主銀行などと、その当時ゴールデンスタンプというスタンプ会社の設立にも関与していた。
クレジットカードは目覚ましい発展を遂げるが、スタンプはその後、「紙片」からプラスチックカード化したりしたものの、やはり紙の小片の貼り付けや商店での取り扱いが時流に乗れなかったためか、今では一時の勢いがない。
クレジットカード自体もアメリカ生まれだが、こうして様々な分野でアメリカの影響を直接間接に受けたり、日本独自のアイディアを組み入れたり、歴史を学ぶと変化や発展の「諸相」が見えてくるだろう。
JCB のJoyJoyプレゼントが成功した4つの要因
JCBのJoyJoyプレゼントはこのように誕生したが、同社のこのプログラムが成功した原因を考えてみよう。
1.JCBというクレジットカード最大手の企画であったこと。つまりすでに一定の顧客と売り上げを持っていたこと。
2.景品は最初は当時大人気であったソニーのウォークマンが最も多かったそうだが、魅力的な景品が続いた。例えば、JCBはこれもカード会社では初めてのギフトカードというユニークな汎用商品券を前年の1980年から発売して、先鞭をつけたが、これを景品に加え、大人気を博した。
JCBギフトカードは、金券であったため金券ショップで現金化もできるほか、その汎用性に目を付けられて、他企業の各種商品、景品や贈答用にも広く使用された。
3.代表的なポイントプログラムになった航空会社のマイレージ(FFP、Frequent Flyers Program)との相互交換が行われて、航空会社のマイレージの普及の波に乗せられた。並行して航空会社とは提携カードの発行も行われ、一般企業とはFUP(Frequent Users Program)で提携を推進して、ポイントプログラムの普及が図られた。
4.JCBが、汎用商品券のJCBギフトカード、スーパーマーケットなどでは今や不可欠のサインなしの5秒間での決済システムの開始など、現在では欠くことができない様々なクレジットカードの基本的なシステムやサービス開発を開発してきた企業であったから。
一見、世界中のクレジットカードは似たような内容や発展過程をたどったかのように思われているが、以上書いたように、日本には日本の特徴ある発展事情がある。
そういった事情を理解して新たな発想やアイディアを組み込んでいくのが、これからのカードの活用や、キャッシュレスの時代への対応にあたっての知恵であると思う。
歴史を知らずにいると間違いが起きるような気がする。
本記事が動画になりました
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櫻井 澄夫(さくらい すみお)
文化史評論家。寄稿家。1948年生まれ。1970年慶應義塾大学文学部卒業。多年、金融系民間企業に勤務、世界各国で国際業務に従事し東京、アメリカ、香港、北京(1990 ~ 2000年)などに駐在。北京駐在時は、中国全省自治区、モンゴル、北朝鮮に出張して業務に従事。日本、中国の各地などで雑誌、新聞での執筆、講演、大学での授業、ラジオ放送などの活動を行う。横浜地名研究会会長。
【主要著書・論文】『叢談 カードの世紀』(きんざい「月刊 消費者信用」、2004年~連載)、『中国・食と地名の雑学考』(田畑書店、2005 年)、『東アジアにおける公共性の変容』(共著、慶應義塾大学出版会。2010年)、『地名管理研究文集』(共著、中国地名研究会(北京)、1992 年)、『横浜の町名』(横浜市刊、1982年)、『古代地名語源辞典』(共編、東京堂出版、1981年)、『地名関係文献解題事典』(共編、同朋舎、1981年)、そのほか金融、文化、収蔵関係の著作物多数。
皆さんは「ポイント還元率が高いから」「ポイントやキャッシュバックなどのキャンペーンが良かったので」「友人知人が使っているから」といった理由でカードを選ばれることが多いと思います。お得ばかりを追い求めてカードを作り続けるとたいていポイントが分散してしまいます。それは入口にフォーカスしているからです。
入口=どこで使うか、出口=カードになにを求めるか、決済金額=一年にどれくらい使うか。
この3つの要素が揃って、はじめて有効なクレジットカードを選ぶことができます。大事なことは最終的にクレジットカードに求めるものを明確にすることです。つまり出口を決めることから始まります。当サイトでは「出口から逆算して決済金額で最適化する」ことを提案します。
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