写真6:Starling Bankの広告(メトロ車内)(ロンドン)
日本の銀行では、デジタル化も含めてサービスレベルの変更や手数料の改正が続いている。身近な金融サービス拠点であるATMは削減され、店舗の統廃合も進む。
銀行口座を維持する、紙の通帳を利用するためには、条件によっては有料となる。そして2021年4月5日以降、ある銀行の口座からコンビニATMを利用して現金を引き出す場合、給料日前後の25日、26日以外の平日8:45~18:00以外の時間帯では330円の手数料が必要となる。一体いくらの預貯金があれば、それだけの利子がつくのだろうと考えてしまう。
そして330円という金額も、ATMのある隣町までの交通費を考えると微妙な金額である。なお、最も利用が多い給料日付近の25日、26日の手数料は無料となるが、これまで以上の行列が予想され、サービスレベルが低下することは確かである。
職場や自宅付近のATMが撤去され、店舗も閉鎖された場合には、コンビニATMを利用せざるを得ないが、都度高い手数料を払うのか、指定日に長い行列に並び手数料無料で必要となる現金を全て引き出すか悩むところである。
当然、給与振込口座に指定しているメイン口座を別の銀行に変更する、またはネットバンキングを利用し、キャッシュレスな生活を送るという選択肢もあるが、身近な存在であった銀行との付き合い方を本気で考えなければならない日が迫っている。
キャッシュレス先進国では銀行店舗もATMも見つからない
日本の銀行も、ATM、店舗の削減に舵をきったが、世界のキャッシュレス先進国と呼ばれる国々では、既に店舗、ATMは街中ではなかなか見つけることはできない。
数字上では、日本の10万人毎の店舗数、ATM台数はそれぞれ34.0店舗、127.8台だが、オランダは11.8店舗、44.6台、スウェーデンは16.2店舗、31.9台と圧倒的に少ない。なお、先進国は減少傾向にあるが、日本はここ10年ほとんど変化がない。(出典:世界銀行(2017年))
オランダの銀行は合併・統合が進み、ING Bank、Abn Amro、Rabo Bankの3大銀行に集約され、首都アムステルダムでも、店舗、ATMを探すのは非常に困難である。
私は各銀行1店舗しか見つけることができなかったが、全ての店舗は小規模な明るい雰囲気で、必ずPCが設置されている。(写真1、2、3)
PCはネットバンキング用で、行員がPCの操作が不得手な高齢者などに指導を行っている姿も見られる。今後も、店舗、ATMを削減することは計画済みであり、その際にユーザーにネットバンキングを抵抗感なく利用してもらうための備えでもあるのだろう。
写真1:ING Bank(アムステルダム)
写真2:Abn Amro(アムステルダム)
写真3:Rabo Bank(アムステルダム)
スウェーデンの第3の都市マルメでも、駅前周辺ではSwed Bankの1店舗を見つけただけであった。
やはり小規模で明るい雰囲気の店舗で、PCが設置されている。また店舗の入口にはペットと同様に、紙幣にも×印がされている。(写真4)
なお、Swed Bankだけではなく、キャッシュレス化が進展するスウェーデンの銀行では3/4の店舗で現金を扱っていない。
店舗は現金の入出金などのオペレーションを行う場ではなく、資産運用や住宅ローンなどの相談を行う場へと変化している。
写真4:Swed Bank(マルメ)
他の北欧諸国(フィンランド、デンマーク、ノルウェー)も、スウェーデンと同様にキャッシュレス化が進展するが、フィンランドは唯一ユーロを通貨として採用しているためか、少々事情は異なる。
首都ヘルシンキの中央駅前であっても、銀行店舗はNordea Bank、OPしか見かけない。ただし、ATMはフェリーで数時間のエストニアのタリンをはじめとした隣国からの買い物客や観光客のためもあり、街中の大手スーパーマーケットの出入口付近や人が集まる場所には必ずOtto.と呼ばれるATMが設置されている。
なお、Otto.とは「出金」という意味で、厳密にはATMではなく、引出し専用のCD(キャッシュディスペンサー)である。(写真5)
フィンランドだけではなく、オランダやスウェーデンを含めて海外のATMはほとんどが引出し専用であり、入出金可能なATMを見つけるのは困難である。
写真5:Otto.(ヘルシンキ)
デジタル専業銀行の台頭
伝統的な銀行が店舗、ATMを削減し、ネットバンキングへとシフトする一方で、欧米では店舗、ATMを持たないネットだけでサービスを提供するチャレンジャーバンク、ネオバンクと呼ばれるデジタル専業銀行の設立も相次いでいる。
なお、チャレンジャーバンクは銀行免許を取得しており、ネオバンクはBaaS(Bank as a Service)などを利用して銀行免許なしで、銀行業務を行うデジタル専業銀行のことである。
イギリスでは4大銀行(Barclays、HSBC、Lloyds Banking Group、The Royal Bank of Scotland)の寡占によるサービスレベルの低下を問題視した政府の後押しがあり、2014年にデジタル専業銀行のAtom bankが開業し、その後も設立ラッシュが続いている。
イギリスのデジタル専業銀行の歴史はまだ5年強に過ぎないが、既に様々な独自の戦略で、ユーザーに受け入れられ、4大銀行をも脅かす存在となっている。
なお、ロンドン市内では観光名物二階建てバスやメトロでは、デジタル専業銀行の広告をよく見かける。一度話題になり、人気に火が付けば、SNS等でその良さが拡散されるが、まずは知ってもらうことが重要なのであろう。(写真6、7)
写真6:Starling Bankの広告(メトロ車内)(ロンドン)
写真7:Monzoの広告(ロンドン)
イギリスの躍進するデジタル専業銀行をいくつか紹介する。Revolutは2019年には資金決済事業者として日本にも進出し、世界中に2,000万人のユーザーを持つ国際送金に強みを持ち、グローバルで活躍するビジネスマンや外国人労働者からの人気が高い。
Monzoはイギリスで初めて給与の前払いサービスを導入するなど先進的なサービスを提供し、ミレニアル世代を中心に人気である。Starling Bankは店舗、ATMを持たないデジタル専業銀行の弱みをPost Officeとの連携で解消し、有人サービスを必要とするユーザーからの人気が高い。
また、NorthOakは他のデジタル専業銀行がユーザー確保を優先する拡大路線を進める中、採算性を重視し、基幹システムをクラウド化するなどのコスト削減を徹底し、デジタル専業銀行としては初の黒字化を実現している。
日本と同様に先進国の中ではキャッシュレス化が遅れるドイツでも、デジタル専業銀行の設立は相次いでいる。
Fidor Bankは2007年設立の最も歴史のあるデジタル専業銀行だが、Facebook、Twitter、LinkedIn、YouTubeなどのSNSを積極的に活用し、コミュニティを重視した戦略で、ユーザーとの距離を縮めている。
また、チャレンジャーバンクの雄と称されるN26は、スマホだけで8分間で口座開設ができることで話題となったが、既に欧米25ヶ国に展開し、500万人以上のユーザーを確保している。なお、主要な収益源はオーバードラフトの手数料である。
フランスではNikelが面白い。「銀行に拒否された人も歓迎します」というコンセプトのもと、国内約4,000店舗のタバコ屋で誰でも簡単に口座開設ができ、ユーザーの約40%は失業者や定期収入のない生活が不安定な者である。
フランスでは銀行口座がなければ就職にも影響し、社会保障の給付金なども受け取れないため、彼らにとっては生きるための最後の砦的な役割も担う。
欧州には遅れをとったが、アメリカでもデジタル専業銀行は台頭しつつある。
Varoは2020年7月にアメリカではじめて全米銀行免許を取得したデジタル専業銀行で、伝統的な銀行が顧客としない収入が少なく、資産がないユーザーがメインターゲットである。
Chimeは口座維持手数料、そしてドイツのN26の収益の柱であるオーバードラフトの手数料も一定額までは無料とし、ミレニアル世代を中心に若者からの圧倒的な人気を得て、500万人のユーザーを集めている。
なお、コロナ禍においては米国ではCARES法(コロナウイルス支援・救済・経済保障法)に基づき、政府は消費者へ給付金を支給したが、Chimeは政府の支給が完了する以前に融資を実行し、ユーザーは政府からの給付金を受取るよりも2~3週間早く資金を受取っている。
Chimeだけではなく、コロナ禍において、フィンテック企業は伝統的な銀行とは異なる迅速で柔軟な対応により、給付金支給などで活躍している。
フィンテック企業のおかげで、アメリカでは日本のように給付金が手元に届くまで数ヶ月を要するということはない。
デジタル専業銀行の設立ラッシュ、そして躍進は欧米だけの話ではなく、南半球でもその勢いは止まることはない。
ブラジルでは2014年設立のNu BankがUnbanked向けにサービスを提供し、金融包摂に貢献している。
コスタリカでは2020年に、女性の地位、経済力向上を目的にJefaが開業している。
また、オーストラリアでも、イギリスと同様に4大銀行(Australia and New Zealand Bank、Commonwealth Bank、National Australia Bank、Westpac Bank)の寡占によるサービス低下が問題となり、2018年、約20年振りの新銀行として、Volt Bankなどのデジタル専業銀行が開業している。
オーストラリアのデジタル専業銀行は1日の秒数に由来する:86400、大きな的を倒すという意味を込めたJudo Bankなどネーミングがユニークである。
また、アジアでもデジタル専業銀行のブームの声が聞こえはじめている。
香港では2019年、金融管理局が実店舗を持たない仮想銀行(デジタル専業銀行)の8社に銀行免許を交付し、2020年にXiaomi(中国系スマホメーカー)系列の天星銀行(Airstar Bank)が開業している。
シンガポールでも2019年、通貨金融庁が仮想銀行(デジタル専業銀行)の免許を最大5社に交付すると発表し、21社が応募している。
台湾でも2019年7月、金融監督管理委員会(金管会)が、将来商業銀行、楽天国際商業銀行、連線商業銀行(Line Bank)の設立を認可している。なお、Lineは2020年、タイでもKasikorn Bankと提携し、Line BKを開業している
日本のLINE Bankの開業は2022年に延期となったが、2021年にはふくおかフィナンシャルグループのみんなの銀行の開業が予定され、ヤマダ電機もBaaS を利用して銀行業への参入を発表している。
既にJALもJAL NEOBANKとして銀行業に参入しているが、今後も消費者にとって身近な存在の企業が銀行業へ参入すると予想される。
数年先に家電を買う、もしくは旅行に行くために貯金をする、今手元に資金はないが、故障などで急に家電が必要な際にローンを組むなど、旅行業や家電量販店は金融サービスと相性が良い。
コロナ禍による金融サービスの変化
コロナ禍では現金に触れる、人と接触することを避ける傾向にあり、銀行店舗、ATMではなく、ネットバンキングを利用する機会も増えている。
また、海外ではロックダウンにより店舗が閉鎖されたため、やむなくネットバンキングを利用し、その利便性に気付いたという声も聞こえてくる。
さらには、外出自粛要請などもあり、自宅で過ごす時間が増え、EC(ネットショッピング)やフードデリバリーの利用が増えている。
米国では日本よりもはるかにクレジットカードの入会審査が厳しい為、ミレニアル世代などの若者を中心にクレジットカードの保有率は低い。
そこで急成長しているサービスがBNPL(Buy Now , Pay Later)である。BNPLではKlarna(スウェーデン)、Affirm(アメリカ)、Sezzle(アメリカ)、Afterpay(オーストラリア)が有名だが、クレジットカードを利用することなく、従来の方法とは異なる審査方法で与信を行い、審査に通過すれば後払い、分割払いができるサービスである。
日本でも、2021年4月に改正割賦販売法が施行され、極度額10万円を上限とした包括信用購入あつせん業を営む事業者に新たな登録制度(登録少額包括信用購入あつせん業者)が創設される。従来の与信方法ではクレジットカードを持てない、またセキュリティ等の懸念からクレジットカードを持たないユーザーの利用が想定される。
After/Withコロナの金融サービス
日本でも、2019年の大規模キャンペーンも懐かしいが、スマホ決済やQRコード決済は流行語大賞にノミネートされるほど世間に認知されたサービスとなった。その後、コロナ禍に突入し、現金に触れることを避けるため、カードブランドが発行するコンタクトレス決済(VISAのタッチ決済など)を含め、キャッシュレス化は進展している。
さらに、割賦販売法改正による少額クレジット、また給与のデジタル払い、金融仲介業の創設などの金融サービスの規制緩和が続くが、その目的は「真の金融包摂」であり、単に銀行口座を保有し、給与を受取り、公共料金を自動引落しするだけではなく、外国人労働者を含め日本に住む全ての住民にとって、投資、貯蓄、融資などの金融サービスを身近でメリットのあるものとするためである。
近々ではファミペイの後払いサービスが話題となったが、今後は既存の金融機関ではない企業・団体が消費者にとってメリットのあるサービスを続々と提供するはずである。金融サービスはコロナ禍をきっかけとして大きく変化を続ける。
安留 義孝(やすとめ よしたか)
日本アイ・ビー・エム株式会社 IBMコンサルティング事業本部 金融サービス事業本部 アソシエイトパートナー
1968年、横須賀市生まれ。明治大学商学部卒。
メガバンク系シンクタンクを経て、日本アイ・ビー・エム株式会社入社。2016年以降、世界22カ国を訪問し、世界の金融、決済、小売の調査研究、および決済領域を中心にコンサルティング業務に従事。
「月刊消費者信用」の長期連載に加え、「月刊金融ジャーナル」などへの寄稿多数。セミナーインフォ、NCB Lab、ペイメントナビ、日本クレジット協会、金融財政事情研究会などでの講演多数。
代表著書は「キャッシュレス進化論~世界が教えてくれたキャッシュレス社会への道しるべ~」(金融財政事情研究会)、「テレワークでも成果を上げる仕事術」(マイナビ出版)、「世界デジタル紀行 日常生活に溶け込むDX」(共著・日本橋出版)、「BNPL 後払い決済の最前線」(金融財政事情研究会)(2023年3月)。
皆さんは「ポイント還元率が高いから」「ポイントやキャッシュバックなどのキャンペーンが良かったので」「友人知人が使っているから」といった理由でカードを選ばれることが多いと思います。お得ばかりを追い求めてカードを作り続けるとたいていポイントが分散してしまいます。それは入口にフォーカスしているからです。
入口=どこで使うか、出口=カードになにを求めるか、決済金額=一年にどれくらい使うか。
この3つの要素が揃って、はじめて有効なクレジットカードを選ぶことができます。大事なことは最終的にクレジットカードに求めるものを明確にすることです。つまり出口を決めることから始まります。当サイトでは「出口から逆算して決済金額で最適化する」ことを提案します。
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