Money20/20 EuroでのKlarnaのプレゼンテーション
欧米、豪州で流行のBNPL(Buy Now , Pay Later)だが、既に日本でも認知されたサービスである。
2021年の日経トレンディが発表する「ヒット商品ベスト30」では、26位に「後払い決済」がランクインし、52才の私が感じるよりも、若い世代を中心に浸透した決済手段のようである。
この記事によって分かること
決済は多様化。クレジットカードを持てない、使わない消費者も増加
日本では特にバブル期の記憶がある世代にとっては、現金以外の決済手段はクレジットカード一択であり「後払い」が当たり前であった。
しかし、2001年にサービスインしたSuicaに加え、交通系のPASMO、流通系でもWAON、nanacoなどの電子マネー、さらに2019年の大規模キャンペーンとともに話題をさらったQRコード決済など、決済手段は多様化している。
そして、これら21世紀に入り登場した新しいキャッシュレス決済は基本的に「前払い」である。
ミレニアル世代、Z世代と呼ばれる若い世代にとっては、クレジットカードよりも「前払い」である電子マネーやQRコード決済の方が身近な存在なのだろう。
加えて、社会環境の変化により、従来のクレジットカードの与信審査では通らない消費者が増えている。
フリーランスという働き方も一般化し、企業に属さずにベンチャーを起業する若者も多い。
そして、一つの企業に勤め続けるのではなく、より良い仕事やより良い職場環境を求めてポジティブに転職を繰返すジョブホッパーも当たり前の存在となった。
彼らは一定以上の収入を得ていても、従来の審査基準に含まれる「所属企業」「勤続年数」などが原因でクレジットカードの審査が通らないこともある。
このように決済手段が多様化する中、コロナ禍によるECの成長に伴い、ECでの決済でクレジットカード以外の「後払い決済」が選択されるケースが増え、2021年度の取扱金額は1兆円、さらに2025年度には2兆円を超すと予想されている。
日本は「後払い決済」先進国
ただし、日本のクレジットカード以外の「後払い決済」はコロナ禍で登場したわけではない。
商品とともに請求書が送付され、商品を確認した後にコンビニなどで代金を支払う形式の「後払い決済」を牽引するネットプロテクションズは創業21年で、BNPLのパイオニアと呼ばれるスウェーデン発のklarna(クラーナ)の16年に比べてはるかに歴史は長い。
また、Afterpay(アフターペイ)は6年、Affirm(アファーム)は8年と、海外のBNPLは10年に満たない企業が多い。
加えて、商品到着時に代金を支払う「代引き」も当たり前に利用されている。
日本の宅配サービスは世界で絶対的に最高と言っても過言ではない安心・便利なサービスである。
だからこそ、初めて会うドライバーに商品の代金を預ける「代引き」を安心して利用できる。
さらに、携帯電話料金とまとめて支払う「キャリア決済」も利用されているが、これも日本は携帯電話料金の支払いが「後払い」を基本としているから可能なサービスであり、携帯電話料金を事前に支払う必要がある途上国では不可能なサービスである。
当然、クレジットカードの普及率は68%(世界銀行、2017年)と高く、世界でも有数のクレジットカード利用国である。
さらに、購入毎に契約をするショッピングローンも利用でき、日本は「後払い決済」先進国であることは間違いない。
2021年割販法改正により創設された「少額包括信用購入あっせん」
今後期待したい「後払い決済」が、2021年4月の割賦販売法の改正により創設された「少額包括信用購入あっせん」である。
限度額は10万円までとなるが、従来の与信審査ではなく、AIを活用した独自の審査が認められている。
登録のハードルも下げられ、フィンテックベンチャーや金融機関以外の異業種からの参入も期待され、2021年10月現在、2社が登録している。
AIを活用した独自審査が可能なため、年収が少ない、継続勤務年数が短いなどの理由により、従来の与信審査ではクレジットカードを持てない可能性のあったフリーランスやベンチャー起業家、さらには170万人超の外国人労働者でも「後払い決済」を利用できる可能性がある。
また、CIC(指定信用情報機関)の参照が義務付けられているため、過剰融資や多重債務も予防できる。
今後、顧客基盤を持つ小売業やフィンテックベンチャーが「少額包括信用購入あっせん」業者に登録して「後払い決済」を提供することで、「後払い決済」市場の競争は激化し、消費者がより利用しやすいサービスが登場するだろう。
また、ECの決済でクレジットカードは利用できるものの、一括払いに限定されている場合が多く、また個別にショッピングローンなどを契約して分割払いが可能な場合はあるが、様々な情報を入力する必要もあり、正直面倒である。
既存のクレジットカード会社などが、UXの優れたEC専用の分割払いが可能な「後払い決済」を導入することもあると思われる。
BNPLは日本の経済成長のカギを握る
今後も日本でクレジットカードの保有率が大きく下がることはないと思うが、ECでの支払いの選択肢としてクレジットカード以外の「後払い決済」が利用される機会が増えることは間違いない。
少なくとも、コロナ禍が終息し、テレワークからコロナ禍前の働き方に戻す企業も増えれば、自宅を留守にすることが増え、置き配が普及したこともあり、「代引き」の利用は減少する。
その受け皿として、クレジットカードを持たない、利用しない消費者にとってはクレジットカード以外の「後払い決済」は必須のサービスである。
2021年に入り、唐突に日本に「ユーザーから利息・手数料を取らない」「即時の与信審査」というキャッチフレーズとともに伝わったBNPL(「後払い決済」)だが、メリットはそれだけではなく、時代が変化し、消費者も変化し、ECでの取引が増加する中で、必要とされている新しい「後払い決済」なのである。
ただし、BNPL(「後払い決済」)は魔法の財布ではない。事業者が適切な与信審査を行い、消費者が返済できる範囲で利用するマインドが必要となる。
その時にはじめて消費は活性化し、経済は再生できるはずである。
逆に、事業者による適正な与信審査と消費者の適正な利用ができない時は、過剰融資、多重債務が社会問題となり、失われた30年は継続されることになる可能性は高い。
BNPL(「後払い決済」)はアフターコロナの経済再生のカギを握る重要なサービスなのである。2022年はデジタル時代の日本のECでの決済の変革に注目したい。
安留 義孝(やすとめ よしたか)
日本アイ・ビー・エム株式会社 IBMコンサルティング事業本部 金融サービス事業本部 アソシエイトパートナー
1968年、横須賀市生まれ。明治大学商学部卒。
メガバンク系シンクタンクを経て、日本アイ・ビー・エム株式会社入社。2016年以降、世界22カ国を訪問し、世界の金融、決済、小売の調査研究、および決済領域を中心にコンサルティング業務に従事。
「月刊消費者信用」の長期連載に加え、「月刊金融ジャーナル」などへの寄稿多数。セミナーインフォ、NCB Lab、ペイメントナビ、日本クレジット協会、金融財政事情研究会などでの講演多数。
代表著書は「キャッシュレス進化論~世界が教えてくれたキャッシュレス社会への道しるべ~」(金融財政事情研究会)、「テレワークでも成果を上げる仕事術」(マイナビ出版)、「世界デジタル紀行 日常生活に溶け込むDX」(共著・日本橋出版)、「BNPL 後払い決済の最前線」(金融財政事情研究会)(2023年3月)。
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入口=どこで使うか、出口=カードになにを求めるか、決済金額=一年にどれくらい使うか。
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